【蓄音機】～椿音楽教室～

現在市場に出回っている円盤といえば、CDが主流だろう。だが近年はサブスクリプションの影響でこのCDすら過去の産物になる気配すら足元にある。
　そんななか、マジョリティへの流行は衰えたものの、いまだにマニアの心を掴んで離さないのが、蓄音機で音を鳴らす、いわゆるレコード盤だ。
　私は純粋なレコードの音を聴いたことが無かったが、幸運にも間近でヴィンテージの蓄音機とレコードをお目にかかることができた。
　後輩の紹介で、東武東上線沿線のとある駅、その周辺を少しだけ外れた閑静な住宅路にポツリと現れる居酒屋に訪れた。キャパシティが10にも満たないとても小さな、駄菓子屋さんのような店だった。
　つまり客とお店の人間の物理的距離が近いわけだから私は少しばかり緊張していたのだが、お店のマスターは大変気さくな方で、そしてなにより店内にはレトロな掘り出し物が所狭しと置いてある。まだまだ現役の古びた振り子時計に、同じく古いラジオ、田んぼに水が氾濫した時に乗る舟、本物の岩塩を使ったランプ……ここに来て好奇心がくすぐられないわけがない。
　私たちは3人でお店を訪れたのだが、最終的にお客はキャパギリギリの7人にまで増えた。音楽をする者が集まるというその店では、必然的に会話の内容も音楽に関するものとなる。
　その話題の延長でマスターが出してくれたのが、モノホンの蓄音機だったのである。