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Staff Blog

更新日:2016.09.04

【ある作曲家のつぶやき】 ~椿音楽教室~

[fusion_text]「一五一会」

 2016年の夏に、私は初めての八重山観光に出向いた。沖縄県の中でも石垣市、与那国町、その他の複数の島からなる竹富町の一市二町を合わせて“八重山”と言うそうなのだが、その中でも知る人ぞ知る、沖縄県民も「あそこへ行く人のほとんどがツウの常連」と言っていた鳩間島に行って来たのである。
 鳩間は島を一周するのに、歩いても一時間弱しかかからないとても小さな島だった。日によっては島の住民よりも観光客の方が人口が多いこともあり、病院はなく、日帰り観光客に向けた食堂は一カ所しか無い。
 上の文だけを見ると鳩間島は一見何も無い島のように感じるかもしれないが、実際のところはそうでもない。私は民宿のヘルパーとして十日ほどこの島にとどまっていたのだが、西の桟橋から見るサンセットは素晴らしいものだったし、満月の日に東から現れる月は“スーパームーン”よりも鮮やかに見え、その光は街灯が無くても道しるべになる。深夜に埠頭へ出てみると天の川が見え、少し辺りを歩いただけで猫や犬、ヤギに牛、ヤシガニなどがヒトの使う道に当然のごとく出没する。
 なによりもこの島の特徴は人々の人情だ。観光客が島人に合えば文字通り一分で打ち解けられる。かく言う私も、地元の方々と出会ってからものの数分で音楽を生業にしていることが知られ、鳩間島の曲を作ってくれという話に転がっていったのである。
 鳩間島の曲を作るからには、やはり沖縄民謡風がいいだろうか? だが沖縄民謡的な作曲、これがなかなか難しい。普段ジャズや洋楽、J-POPを好んで聞いていた私の体には沖縄の独特な調が染み込んでいなかった。これは困った。
 そんな折だったか、たまたま私の宿泊先に帰省していた地元の方が、なにやら楽器を手に取って音を奏でていた。見た事も無い楽器だ。ギターよりも小さいがウクレレよりも大きい。ネックは長く、弦は四本だった。風にたなびく短冊のようなボディを持つそれに興味をそそられて、楽器の名前を聞いてみると“一五一会”というらしい。
 一五一会は、沖縄出身のユニットBIGINが楽器製作所とコラボして作り上げた創作楽器だという。ベーシックな調弦がG-D-G-D(F-C-F-C)で、人差し指でコードを押さえられるように作った「世界一簡単な楽器」だという。バリエーション楽器に音来(ニライ)と奏生(カナイ)がある。
 これだ、と私は思い立った。沖縄の曲には、沖縄の楽器を使えばうまく案が出るのではないか?
 私はしばらくその不思議な楽器を貸してもらう事にした。その地元の方は、調弦をギリシャの楽器「ブズーキ」と同じ調弦(F-C-G-C)にしていたので、この不思議な調弦のまま鳩間島の浜辺で波の音を聞きながら曲作りにいそしんだ。
 それからは不思議な事に、鳩間のための曲作りはものの一時間程度で終わった。一五一会、恐るべき楽器である。
 鳩間島から帰る前日に、出来上がった曲を民宿スタッフとその日に来ていたお客様の前で曲を披露することになった。次の日には別々の地方へ返ってしまう方々に、私の曲を聞いてもらうというのはまさに“一期一会”。商業音楽とはまた違う作曲の楽しみと、作曲家としての嬉しさを私は噛み締めたのである。[/fusion_text]