【初見とか最早そういうことではない②】～椿音楽教室～

そしていざ通しをしようと言うときになって、先生は私にそのスコアを返して来たのだ。私が疑問になって「もうよろしいんですか？」と言ったら、「覚えた」と言う言葉が返って来た。
　一瞬で私の頭の中でハテナが踊り狂ったことはきっと理解してくれるだろう。スコアを渡してものの二分も経っていないのである。そんななか約４分半ある学生が作ったオリジナルの曲を覚えたと言うのだ。コードも、構成も、尺も、そのすべてを、である。
　実際に演奏が始まったら度肝を抜かれた。本当に曲を全て覚えている。何回か合わせをしたはずの他の学生が演奏と格闘する中、先生は余裕の表情で低音部を支え、ソロの部分では技巧的なフレーズを披露して学生の度肝を抜いた。
　これがプロの演奏なのかと戦慄したのがついこの前のことのように蘇る。自分の担当する部分の全ての楽譜を一、二分で初見し完璧に弾きこなす技術は、最早初見とかそういう次元ではない。
　あそこまで弾きこなせたらどれだけ音楽が楽しくなるのだろうか、と私は思う。